あなたは何かを伝えたいとき、どうしますか?
コミュニケーションが苦手だと感じたことはありますか?
言葉が上手く伝わらず、途中で意図が途切れてしまった経験は?
報告した相手から理解されず、反対に怒られたことは?
申し送り時間の短縮で、必要な情報が正しく伝わらないことがトラブルの原因となってしまったことはないでしょうか?
我々が活動する医療の現場では、こうしたコミュニケーションエラーの問題は命取りになり得ます。
医療事故は申し送りのミスから生じることがあるのです。
それならば、どうすればこれらの問題を解決し、誤解を招かない明確で効果的な情報伝達ができるのでしょうか?ISBARCがその鍵となるでしょう。
この記事を読めば、効果的な申し送り方法が身に付きます
かつてSBAR(エスバー)と呼ばれていた情報伝達ツールは現在、’I’と’C’が加わりISBARC(アイエスバーク)として改良されています。
‘I’はIdentify(識別)で、自分自身を明確に名乗ることを指し、’C’はConfirm(確認)で、相手からの指示や情報を復唱してエラーの発生を防ぐことを意味します。
口頭での指示は誤解を招きやすいため、’C’の部分、つまり復唱は必須のステップとなります。
医療安全とコミュニケーションの大切さ
ちょっと考えてみてください。
たとえば、子どもが友達と遊んでいてケガをしたとします。
子供は電話で一生懸命あなたに伝えようとしています。
しかし、泣いていることもありハッキリと状況がわかりません。
言わなければならない重要な情報がたくさんありますよね。
ケガの場所はどこか、どうやってケガをしたのか、今どれくらい痛いのか…。
これらの情報をうまく伝えないと、あなたはどうしたらいいのかわからなくなってしまうかもしれません。
様子見て大丈夫なのか?
すぐにでも駆け付けた方がよいのか?
相手はいるのか?
被害を受けたのか?与えたのか?
これと同じように、病院でも情報を正確に伝えることがとても重要です。
でも、病院はもっと複雑で、情報を伝える人もたくさんいます。
医者や看護師、患者や家族…みんながお互いに情報を伝え合って、一緒に患者さんを助けていくのです。
でも、時々、情報がうまく伝わらないことがあります。
だから、みんなが同じように情報を伝える方法が大切です。
それが「ISBARC」という方法です。
ISBRACとは何か
「ISBRAC」というのは、何か重要なことをしっかり伝えるためのツールです。
これを使うと、きちんと全ての大切なことを伝えることができるようになります。
医者や看護師は、この「ISBRAC」を使って、患者さんの大切な情報を上手に伝えることができます。
- I(Identify):自分と相手をしっかりと紹介する
これは、自分が誰で、話している相手が誰かをはっきりと伝えることです。 - S(Situation):何が起きているのかを説明する
これは、今何が起きているのか、何が問題なのかを伝えることです。 - B(Background):事の背景を伝える
これは、今の状況がどうして起きてしまったのかを説明することです。 - A(Assessment):自分の考えや評価を伝える
これは、今の状況をどう考えているのか、どう評価しているのかを伝えることです。 - R(Request):次に何をすべきかを提案する
これは、これからどう行動すれば良いと思うのかを提案することです。 - C(Confirm):相手が理解しているかを確認する
これは、自分が伝えたことを相手が理解しているかを確認することです。
これを使うことで、情報を報告する側は自分のメッセージを整理しやすくなり、受け取る側も報告を理解しやすくなります。
ISBARCの各要素についての詳しい解説
情報伝達は医療現場において不可欠な要素であり、その伝達方法は医療の質と安全性に直接影響を及ぼします。
そのため、ISBARCは情報伝達のための強力なツールとして使用されます。
それでは、ISBARCの各要素について具体的に解説していきましょう。
I: Identify(識別)
最初のステップであるIdentifyは、自分自身と相手の識別をすることを指します。
これは、自分が誰であるか(役職や職種)、相手が誰であるか(名前や役職)を明確に伝えることで、伝達する情報が正確な人物に届くことを確認するためのステップです。
S: Situation(状況)
次に、現在の状況を明確に伝えることが求められます。
これは具体的には何が起こっているのか、どの患者について話しているのか、などを包括します。
ここで大切なのは、最も緊急性が高いまたは注目すべき症状を最初に短く、はっきりと述べることです。
相手が患者の状態を迅速に理解し、適切な対応を始めるために不可欠です。
B: Background(背景)
この部分では、現在の状況がどのようにして生じたのか、その背景を説明します。緊急性の高い状況で報告する際には、先に報告内容を確認し、整理しておくことで迅速に伝達することができます。
- 患者さんの入院理由や目的
- 既往歴
- アレルギーの有無
- 入院後の経過
- 検査結果
- バイタルサイン
- 患者さん自身の訴えや痛みの程度
- 問題に関する身体の所見
- 意識状態など
ただし、相手がすでに患者の状態を把握している場合は、必要な情報だけを短く、明瞭に伝達します。
A: Assessment(評価)
Assessmentでは、あなた自身の臨床的評価を伝えます。
つまり、「あなたが何を考えているのか」を明確に伝えます。
これには、現在の問題に対するあなた自身の理解や、患者の状態がどのように進行すると予想されるか、などが含まれます。
R: Recommendation(推奨)
次に、あなたが次に何を行うべきだと思うか、つまり具体的な行動計画を提案します。
これには、特定の治療方針の変更や、専門家の意見の要請、あるいは特定の検査の要求などが含まれる可能性があります。
C: Confirm(確認)
最後に、伝えた情報が正確に理解され、適切に行動が取られるように確認します。
これは、伝えた情報を相手が繰り返す、あるいは相手に質問をして理解度を確認するなどして行います。
これらすべての要素が組み合わさることで、ISBARCは医療現場における情報伝達の質を向上させるのです。
ISBARCと医療安全
ISBARCは、情報伝達のプロセスを標準化し、それぞれのステップで必要な情報を明確にすることで、伝達される情報の質と完全性を保証します。
これにより、情報が適切に伝達され、理解され、そして行動に移されることで、医療事故のリスクが軽減されます。
では、具体的な使用例を見てみましょう。
例えば、ある看護師が患者の急激な状態変化に気付いたとします。
彼女は担当医に連絡をとることを決め、ISBARCを使用して情報を伝えます。
I(Identify):「ICUの看護師の鈴木です。佐藤先生ですか?」
S(Situation):「私が担当している患者、田中博さんの状態が急に悪化しました。息が苦しそうで、意識ももうろうとしています。」
B(Background):「昨日、重度の肺炎で入院しました。午前中は安定していたのですが、午後から急に状態が変わりました。酸素飽和濃度が下がって体温は38.5度です。」
A(Assessment):「肺炎が悪化している可能性があります。」
R(Recommendation):「すぐに患者のところに来ていただき、診察をしていただけますか?」
C(Confirm):「すぐに、来て頂けるんですね?よろしくお願いします。」
このように、ISBARCを用いることで重要な情報を明確に、かつ迅速に伝えることができます。
- 最初に伝えるべきは一番重要なこと、つまり、目的です。
これは新聞の見出しや映画の冒頭が視聴者の関心を引きつけるのと同じ理由です。
明確で短いメッセージは受け手の理解を助けます。 - 伝える情報が多すぎると、何が本当に伝えたいのか相手には理解されにくくなります。
情報過多は受け手が重要なポイントを見失わせ、情報を整理するのを難しくします。 - 一般的に、女性は詳細を順に説明する傾向がありますが、男性はまず結論を求めることが多いです。
これは医療の場面でも重要で、特に看護師から医師への報告においては、この差異がコミュニケーションエラーの原因になり得ます。 - 測定可能なデータは現在どのような状態にあり、どのように変化しているのかを把握しておくことが重要です。
また、質問に対して即座に答えられるようなデータを手元に持っておくことも大切です。 - コミュニケーションの始まりと終わりには、相手への配慮を示す言葉を使うことが大切です。
「遅い時間に申し訳ありません」とか、「ありがとうございました」などといったフレーズがその例です。 - 最後に、年齢の報告は時折忘れられがちですが、これは医療には重要な情報ですので、確実に伝えるように心掛けましょう。
ただし呼吸停止のような緊急の状況では、「Situation(状況)」と「Recommendation(推奨)」のみで十分です。
ISBARCの実践
情報伝達は医療現場における日常の一部であり、特にチーム内でのコミュニケーションは患者の安全とアウトカムに大きな影響を与えます。
コミュニケーションを改善し、標準化するためにISBARCが存在します。
では、ISBARCを医療従事者がどのように日々の業務に活用できるのでしょうか。
例えば、看護師は医師への報告や患者の状態変化を伝えるとき、医師は同僚や多職種のスタッフに患者の状況を説明するとき、あるいは医療従事者が上司に報告するときなど、さまざまな状況で利用できます。
また、ISBARCは予定されたミーティングや突発的な緊急状況の両方に対応できるツールです。
例えば、手術の前後のミーティングでは、ISBARCを用いて患者の現状、手術の目的、予期される困難などを全員が理解できるようにすることができます。
一方、緊急時にはISBARCが問題の本質を素早く、そして効率的に伝達する手段となります。
ISBARCのトレーニング
新入職員向けのオリエンテーション、定期的なスキルアップトレーニング、あるいはチームビルディングの一環として、ISBARCのロールプレイを行うことが有効です。
シナリオを用意し、2人以上のメンバーがそれぞれの役割を演じ、ISBARCを用いて情報を伝える練習を行います。
これにより、実際の状況に直面したときにISBARCを効果的に使用できるようになります。
結論
新入職員であったりや報告が苦手で緊張してしまう人でも、ISBARCは安心して、そして効果的に情報を伝達するための支えとなります。
ISBARCは様々な状況で効果的に使用することができます。
- 夜間や休日に当直医師へ連絡が必要なとき、看護師はISBARCを用いて情報を整理し、明確に伝達できます。
- 患者の背景や現状が適切に理解されていないと感じたとき、医師への報告にISBARCを使用することで、重要な情報が省かれることなく伝えられます。
- 緊急時には、必要な情報を効率的に伝えるためにISBARCが利用できます。
- スタッフ間の日常的な情報共有の場面でも、ISBARCは情報を簡潔かつ効果的に伝達するツールとして役立ちます。
ISBARCの使用は、時間の節約とコミュニケーションエラーの減少を実現するため、基本的なコミュニケーション手段として活用できます。
ただし、報告を行う前には、報告が本当に必要かどうかを再確認することが重要です。
普段の状況を理解し、報告が必要だと感じたときだけ報告を行いましょう。
不安な場合は、リーダーや先輩に一緒に状況を確認してもらうことも大切です。
ISBARCは、全ての医療従事者が理解し使用することで、その潜在能力が最大化されます。
新人研修から定期トレーニングまで、ISBARCの教育は重要です。
ISBARCは単なるツールではなく、医療現場の文化を形成し、医療の質向上と患者の安全を確保します。
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