【医療安全のルール】医療現場での誤薬を防ぐ「7R」と「3回確認」

昼下がりの病院、カーテン越しの日差しが白い病棟を優しく照らしていました。
ナースステーションでは、看護師の鈴木さんが忙しく資料を整理しています。

突如、ナースコールが点滅します。
『薬が足りないんです。』


鈴木さんの目がキッと開きます。
「またあの患者さんが…」

この患者さんは薬の種類や量、服用方法などが頻繁に変わり、一度に多くの薬を処方されているため、管理が難しい状況です。

そこで鈴木さんは彼女の頭にある一つの考えに目を向けます

それは「薬の7R」です。

薬の7R」とは、薬物療法における7つの「Right」(正しいこと)を意味します。

以前は薬の5R薬の6Rと言われていました。

  1. Right Patient(正しい患者)
  2. Right Drug(正しい薬)
  3. Right Dose(正しい量)
  4. Right Route(正しい用法)
  5. Right Time(正しい時間)
  6. Right Purpose(正しい目的)
  7. Right Record(正しい記録)

これらが全て揃って初めて、患者さんへの最適な薬物療法が提供されます。
この一連のプロセスは患者さんの治療結果を大きく左右します。

この記事を読めば薬の7Rと3回確認について理解することができます。

目次

くすりのリスク

医療現場で、医師・看護師・薬剤師などの専門家は日常的に薬物と関わることが不可欠です。

病院内で最も高いリスクを持つものの一つが、くすりです

くすりは人体にとって異物です。
それは治療とともに、副作用や予期しない反応を引き起こす可能性を常に秘めています。
くすりは、利益とリスクを同時に伴うものなのです。

日本医療安全調査機構によると、2015年10月から2020年9月までの報告された医療事故(死亡・死産事例)のうち17.7%は薬剤の誤投与に起因しています。(報告事例1529例のうちの273例)

参考元:「Gem Med」(ジェム・メド)

Right Patient:正しい患者

小さな病院の大部屋の病室。
その中には、軽い病状で入院している田中さんと、年配の佐藤さんがいます。

田中さんは初めての入院で少し緊張していました。
看護師の鈴木さんは、田中さんと佐藤さんの薬を手に持って配薬を開始しました。

昼食の時に手渡しで薬を受け取り、そのまま内服しました。
しばらくすると、眩暈と吐き気に襲われます。

実は、田中さんと佐藤さんの薬を間違えて手渡してしまったのです。

Right Patient:正しい患者

そこで登場するのが、「薬の7R」の一つ、「Right Patient」、つまり「正しい患者」です。
これは薬が必要な人、つまりその薬を飲むべき患者に、確実にその薬が届くことを確認するということです。

もし鈴木さんが「Right Patient」を確認していたら、田中さんと佐藤さんの薬が間違えられることはなかったでしょう。だからこそ、私たち医療従事者は患者さんに薬を渡す前に、必ず名前を確認をするべきなのです。

もし間違った薬を渡してしまったら、それは患者さんにとって危険な事態を引き起こす可能性があります。
例えば、田中さんが佐藤さんの薬を飲んでしまったら、彼の病気は治らないばかりか、体調を崩すかもしれません。

だからこそ、「Right Patient」はとても大切なのです。

私たち医療従事者は、患者さん一人ひとりに対して正しい薬が届くように最善を尽くすべきです。

そして、それが患者さんの安全と私たちの信頼関係を守るための重要な一歩となるのです。

Right Drug:正しい薬

小さな町のクリニック、医師の山田先生は患者さんの診察を行っています。
今、診察台に座っているのは風邪を引いてしまった小学生の佐藤くんです。

「佐藤くん、風邪を引いたんだね。大丈夫、ちゃんとした薬を出してあげるからね。」と山田先生。
しかし、山田先生は佐藤くんに何の薬を出すべきなのでしょうか?

Right Drug:正しい薬

ここで大切なのが「Right Drug」、つまり「正しい薬」の選択です。
風邪の症状には様々なものがあります。
鼻水、喉の痛み、頭痛、発熱…。それぞれの症状に合わせて、最適な薬を選ぶことが必要なのです。

例えば、佐藤くんが鼻水と喉の痛みに悩んでいるなら、それに対応した風邪薬を選ぶべきです。
もし頭痛の薬を出してしまったら、佐藤くんの症状は改善されません。
それどころか、不必要な薬を体に入れることになり、それが新たな問題を引き起こす可能性さえあります。

そこで山田先生は、佐藤くんの症状を詳しく聞き出し、それに最適な薬を選びます。
そして、その薬が本当に佐藤くんに適しているか再確認をします。
これが「Right Drug」の適用例です。

このように、「Right Drug」は患者さんにとって最善の治療を行うために、とても重要な要素となります。

私たち医療従事者は、患者さん一人ひとりの症状や状況に合った「正しい薬」を選択するよう努めるべきなのです。

そして、それが患者さんの健康回復と安全確保に直結する大切なプロセスなのです。

Right Dose:正しい量

ある日、診察室で医師の山田先生は、頭痛で苦しむ中学1年生の佐藤くんに対して頭痛薬を処方することにしました。
しかし、山田先生はどれくらいの量の薬を佐藤くんに渡すべきでしょうか?

Right Dose:正しい量

ここで大切なのが「Right Dose」、つまり「正しい量」です。
たとえば、大人と同じ量の薬を子供に出してしまったら、それは子供の体にとっては多すぎる量になり、体調を悪化させる可能性があります。
また、逆に少なすぎる量の薬を出してしまったら、症状が改善されず苦しむ時間が長引くことになります。

そこで、山田先生は佐藤くんの体重や年齢を考慮し、最適な量の頭痛薬を処方します。
そして、その投与量が佐藤くんにとって適切かどうか、きちんと説明し確認をします。
これが「Right Dose」の適用例です。

このように、「Right Dose」は患者さんの安全と効果的な治療を確実にするために非常に重要です。

私たち医療従事者は、患者さん一人ひとりの状態に応じて「正しい量」を選択し、その適用を確認することが求められます。

そして、それが患者さんの安全と早期回復、そして信頼性を保つための重要なステップとなります。

Right Route:正しい用法

山田先生が入院患者の佐藤さん部屋に入り、痛み止めの投与指示を看護師の鈴木さんに伝えました。
鈴木さんはその薬を筋肉注射で投与するため薬剤を準備しました。

処置室で筋肉注射の準備を始めると、通りかかった薬剤師の田中さんが声を掛けます。
「その薬、入院患者の佐藤さんのものですよね? 佐藤さんの薬は静脈注射でしたよ。」

この情報を聞いて、看護師の鈴木さんは自分の誤解に気づき、すぐに山田先生に確認を取りました。

Right Route:正しい用法

ここで大切になってくるのが「Right Route」、つまり「正しい用法」の選択です。
薬にも経口や静脈内、皮下、筋肉、吸入、座薬や点眼など様々な手段があります。

同じくすりでも投与法を意図的に、違う手段で行くこともあります。
また、医師が指示を出し間違うこともあるのです。
そのくすりの投与方法が適切なものであるか確認することが「Right Route」です。

「Right Route」は、薬物が患者さんに適切に、効果的に投与されるために重要です。

私たち医療従事者は、患者さんへの正しい投与方法を確認する必要があります。

これにより患者さんの安全と早期の回復を確保し、医療の信頼性を維持することができます。

Right Time:正しい時間

介護施設に住む佐藤さんは、高血圧と関節リウマチの治療のために、毎日複数の薬を服用しています。
担当の看護師である鈴木さんは、佐藤おばあさんにどの薬を、どのタイミングで服用させるべきかをきちんと計画しています。
しかし、ある日佐藤さんが「自分の好きな時間に薬を飲みたい」と言い出しました。
そこで鈴木さんは、山田さんに対して、薬の服用時間の大切さとその理由を丁寧に説明しました。

Right Time:正しい時間

これこそが「Right Time」、つまり「正しい時間」の重要性です。

薬の効果を最大限に引き出すためには、それぞれの薬を最適なタイミングで服用することが重要です。
適切な時間帯に服用しなければ、薬の効果が十分に発揮されないだけでなく、場合によっては副作用を引き起こす可能性もあります。

「Right Time」は患者さんの治療効果を最大化し、安全を確保するために重要です。

私たち医療従事者は、患者さんに最適な薬物投与の時間を指示し、その理由をきちんと説明することが求められます。

それが患者さんの早期回復と安全を確保し、我々の信頼性を維持する重要な一歩となるのです。

Right Purpose:正しい目的

佐藤君はサッカー部のエースストライカーです。
しかし、練習中に足をひねってしまい、医者から痛み止めを処方されました。
佐藤君は、試合の前になると緊張してしまい、眠れなくなるります。
その痛み止めが眠りを誘う副作用があることを知り、眠れるようになるためにもその薬を使い始めました。

Right Purpose:正しい目的

ここで重要なのが「Right Purpose」、つまり「正しい目的」です。
薬物は特定の症状や病状を治療するために開発されており、それぞれが特定の目的に基づいて使用されるべきです。

田中君が痛み止めを眠れない対策に使用すると、それが副作用によるものであるため、安全に眠れる保証はありません。また、薬物の乱用は体にとって有害であり、依存症を引き起こす可能性もあります。

そのため、田中君の医者である山田先生は、薬の適切な使用目的と、それを無視した際のリスクについて彼に説明しました。
そして、睡眠導入剤を適切に処方することで彼の問題を解決しました。
これが「Right Reason」の適用例です。

「Right Purpose」は患者さんが薬を適切な目的で使用し、その治療効果を最大限に発揮するために重要です。

私たち医療従事者は、患者さんに薬の適切な使用目的を説明し、それを理解してもらうことが求められます。

それが患者さんの安全と健康を確保し、我々の信頼性を維持する重要な一歩となるのです。

Right Record:正しい記録

山田先生の訪問医療の患者の一人、佐藤さんはいつも元気な笑顔を絶やさない人でした。
ある日突然、彼女の体調が急激に悪くなりました。

山田先生はすぐに佐藤さんの元へ駆けつけ、診察を始めました。
そして、佐藤さんの体調の変化に対応するための新しい薬を処方しました。
そのあと診療記録を詳細に更新し、全ての症状、評価、そして治療の変更点を記録しました。

Right Record:正しい記録

これこそが「Right Record」、つまり「正しい記録」の重要性です。

適切な記録は、患者のケアがどのように進行しているか、どのような治療が行われているか、そしてその効果はどうかを追跡するために必要です。
これにより、他の医療スタッフも患者の状態を理解し、最適なケアを提供することができます。

また、適切な記録は患者の安全を確保するためにも重要です。
山田先生が記録をきちんと更新していなかったら、他の医療スタッフは佐藤さんの状態や治療法の変更を知ることができず、佐藤さんに適切なケアを提供することが難しくなります。

「Right Record」は、患者のケアが適切に行われ、すべての医療スタッフが患者の状態を正確に理解できるようにするために重要です。

私たち医療従事者は、患者のケアの全ての詳細を正確に、そして定期的に記録することが求められます。

それが患者の安全を確保し、我々の信頼性を維持する重要な一歩となるのです。

与薬する前の3回の確認

佐藤さんが入院しています。
彼は糖尿病の治療を受けていて、毎日特定の時間にインスリンを注射しなければなりません。

ある日、新人の看護師、鈴木さんが佐藤さんの部屋に入りました。
手にはトレイがあり、中には佐藤さんへ投与するインスリンが置いてありました。
鈴木さんは注射をする前に確認を行いました。

まず鈴木さんはインスリンの種類が間違いないか確認しました。

次にインスリンをセットする時、鈴木さんは再度ラベルを確認しました。

最後に患者さんに薬剤を投与する前に鈴木さんは佐藤さんに名前を尋ね、インスリンを投与することを告げました。

この3回の確認は、間違えて別の薬を投与する、あるいは別の患者に薬を投与するという深刻なミスを防ぐための重要なプロセスです。

与薬前の3回確認

1回目:薬剤を手にした時
2回目:薬剤を手に取って容器から取り出す時
3回目:患者さんに薬剤を投与する前

他の間違い対策
  • 1患者1トレイを用いる
  • ダブルチェックを徹底する
  • 作業中に違う対応で手を止める際は注意する
  • 間違えやすいものは目立つもので印をつける
  • 指差呼称を行う

忙しさや効率性を追求する中で、確認作業を省きたい気持ちになることもあるでしょう。
医療現場では多くの業務を並行して行う場面が多いため尚更です。
しかし、思い込みや確認不足による事故を避けるため、患者さん、そして自分自身を守るために、これらの手順と確認作業は必要不可欠です。

薬の取り扱いに慣れることなく、常に緊張感を持って薬を扱いましょう。

やるべきルールを省いて、誤薬が発生すると医療過誤に問われることになるでしょう。
ルールを守るのではなく、ルールに守られていることを忘れないようにしましょう。

結論:薬の7R、それぞれの「R」が語る重要なメッセージ

さて、みんな、覚えていますか?
薬の7R、それぞれの「R」は何ですか。

Right Patient」「Right Drug」「Right Dose」「Right Route」「Right Time」「Right Purpose」「Right Record」、これらが薬の7Rです。

これらの「R」は、薬物治療の品質と安全性を向上させる重要なガイドラインとなります。

正しい患者に、正しい薬を、正しい量正しい用法で、正しい時間に、正しい目的で与え、正しい記録をつける。

これらすべてが組み合わさった時、患者の安全が最大限保障され、最高の治療結果が期待できるのです。

これらの「R」は私たちの日々の仕事を助け、患者さんの安全を守ります。
そして、それぞれが大切にされることで、私たちが信頼される医療従事者であり続けることができます。

だからこそ、私たちは薬の7R、それぞれの「R」を大切にします。
そのすべてが、私たちが提供する治療の質と、患者さんの安全を守るための重要な要素なのですから。

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