
何が問題なのか
輸液中の患者を車椅子で移送しようとしていますが、輸液ラインの余った部分が大きく垂れ、車椅子の後輪・スポーク付近を通っています。
輸液バッグは車椅子側の点滴スタンドに掛けられ、患者の手部にもルートが接続されています。一見すると移送準備は整っているように見えますが、このまま車椅子を動かすと、回転する車輪へラインが巻き込まれる可能性があります。
安全確認では、バッグと刺入部だけでなく、輸液ライン全体の走行と車輪・フレームとの位置関係を見る必要があります。
このあと何が起こり得るのか
車椅子を動かした際に輸液ラインがタイヤやスポークへ巻き込まれると、ラインが急に引っ張られ、次の事故につながるおそれがあります。
- 末梢静脈留置針の抜去・抜けかけ
- 刺入部からの出血
- 輸液の皮下漏出
- 接続部の外れや輸液の中断
- 疼痛や皮膚損傷
- ラインが車輪へ絡み、車椅子が急に止まる
- 患者の姿勢が崩れ、転落や負傷につながる
日本医療機能評価機構には、車椅子移送中に点滴チューブがタイヤへ巻き込まれ、中心静脈カテーテルが抜去した事例が報告されています。その事例では、チューブの一部を手で持っていたものの、輸液ボトルから刺入部までの全長と位置を確認できていませんでした。
なぜ起こりやすいのか
- 輸液バッグが掛かり、患者にも接続されているため、準備が完了したと思いやすい
- ラインの一部分だけを整え、全長を確認しないことがある
- 透明なチューブは背景や車椅子のフレームに重なり、見えにくい
- 患者の姿勢、フットサポート、進行方向など、ほかの確認へ注意が向く
- 車椅子を動かし始めてからラインを整えようとすると、すぐに停止できないことがある
- 搬送中のライン管理を誰が担当するか曖昧になりやすい
これは「チューブを見なかった」という個人の問題だけではなく、移動前にライン全体を確認する工程と、搬送中の担当を明確にする必要がある場面です。
改善策
移送前
- 輸液バッグから患者の刺入部まで、ライン全体を手に取りながら目で追う
- ラインの余りを車輪・スポーク・フットサポート・ブレーキなどから離す
- ラインを適切な長さにまとめ、患者の身体や車椅子の安全な位置へ保持する
- 刺入部の固定状態と接続部の緩みがないか確認する
- 患者の衣服や毛布も車輪へ触れていないか確認する
- 誰が車椅子を操作し、誰がラインを管理するかを決める
実際の報告事例でも、車椅子移送時は患者側から輸液バッグ側までライン全体を確認し、車輪へ巻き込まれない位置へ置くことが改善策として示されています。
移送中
- ラインがたるんで車輪へ近づいていないか継続して確認する
- 方向転換、段差、エレベーターへの出入りでは、いったん速度を落とす
- 引っ掛かりや抵抗を感じた場合は、無理に進まず直ちに停止する
移送後
- 刺入部の抜け、出血、腫脹、疼痛、輸液漏れがないか確認する
- 接続部と輸液の滴下・作動状態を再確認する
- 異常があれば輸液を漫然と継続せず、施設の手順に従って対応する
まとめ
車椅子移送前は、輸液バッグと刺入部だけでなく、ライン全体をたどって車輪から離します。
ラインの一部が後輪付近へ垂れたまま移動すると、車輪への巻き込みによってルート抜去や出血、輸液中断などが起こるおそれがあります。
参考資料
公益財団法人 日本医療機能評価機構
「車椅子への巻き込みによる中心静脈カテーテルの抜去」事例。