
1999年〜2004年
1999年は、日本の医療安全にとって大きな転換点となりました。
横浜市立大学附属病院の患者取り違え手術、都立広尾病院の消毒薬誤注入事故などを契機に、医療安全への社会的関心が高まりました。厚生労働省も、1999年1月の横浜市立大学附属病院事件について「医療安全についての社会的関心が高まる」契機として整理しています。
この時期に問われたのは、単なる「うっかりミス」ではありません。
- 患者をどう確認するのか
- 薬剤や消毒薬をどう区別するのか
- 投与経路をどう確認するのか
- 高リスク機器を誰がどう扱うのか
- 事故後に誰へ、いつ、どう説明するのか
- 事故を個人の問題で終わらせず、組織としてどう再発防止につなげるのか
こうした問題が、医療機関全体の仕組みとして考えられるようになっていきました。
1999年 横浜市立大学附属病院 患者取り違え手術
主なテーマ
患者誤認/患者同定/手術安全/チーム確認/止める権限
何が起きたのか
1999年1月、横浜市立大学附属病院で、肺手術予定の患者と心臓手術予定の患者を取り違え、別の手術が行われました。
厚生労働省の「主な医療安全関連の経緯」では、横浜市立大学附属病院事件について、肺手術と心臓手術の患者を取り違えて手術した事件であり、この事件を契機に医療安全についての社会的関心が高まったと整理されています。
なぜ問題になったのか
この事故では、患者の取り違えに気づく機会が、何度もあったはずです。
- 病棟から手術室への搬送
- 手術室での受け渡し
- 麻酔導入前の確認
- 手術開始前の確認
- 診療内容と患者情報の照合
しかし、複数の確認場面が十分に機能せず、取り違えたまま手術が進んでしまいました。
医療安全の視点では、「誰か一人が確認すればよい」では不十分です。
患者同定は、患者、リストバンド、診療内容、手術部位、チーム全員の声出し確認まで含めて設計する必要があります。
学ぶこと
患者確認は、医療安全の基本です。
この事例から学ぶ中心は、
患者確認は、ひとりの記憶や思い込みに頼らない。
複数の識別子、リストバンド、診療内容、手術部位、チーム全員による確認で守る。
ということです。
なお、現在広く使われているような手術前タイムアウトや手術安全チェックリストは、この事故当時に制度化されていたものではありません。
WHOの手術安全チェックリストは2008年に導入されたものであり、この事例は、後年の手術前タイムアウトやチーム全員による患者確認の重要性を理解するうえで重要です。
違和感を持った人がいても、止める仕組みがなければ事故は進んでしまいます。
「おかしい」と思った人が止められる文化と手順が必要です。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
横浜市立大学
「横浜市立大学医学部附属病院の医療事故に関する事故調査委員会報告書」関連ページ
https://www.yokohama-cu.ac.jp/kaikaku/bk2/bk21.html
参照日:2026年5月9日
The World Health Organization’s “Surgical Safety Checklist”
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2984370/
参照日:2026年5月9日
1999年 都立広尾病院 消毒薬誤注入事故
主なテーマ
薬剤誤投与/消毒薬誤注入/ラベル・保管/事故後対応/説明責任
何が起きたのか
1999年2月、都立広尾病院で、消毒液とヘパリン加生理食塩水を取り違え、消毒液が静脈内に投与され、患者が死亡しました。
厚生労働省は、都立広尾病院事件について、看護師が消毒液とヘパリン加生理食塩水を取り違えて静脈内に投与し、患者が死亡した事件として整理しています。また、この事件等を契機に、医療事故の警察への届出が増加したとされています。
なぜ問題になったのか
この事故では、薬剤そのものの取り違えだけでなく、次のような問題が重なりました。
- 消毒薬と注射・点滴に使う薬液の区別
- 容器やラベルの見分けやすさ
- 保管場所の分離
- 投与前確認
- 事故発生後の説明・報告・記録
- 異状を認める場合の外部届出を含む事故後対応
医療安全では、事故が起きる前の防止策だけでなく、事故が起きた後の対応も重要です。
ただし、医療事故による死亡がすべて警察届出の対象になる、という意味ではありません。
厚生労働省の死亡診断書・死体検案書に関するQ&Aでは、警察署への届出は「異状を認める場合」であり、異状の有無は医師が個々の状況に応じて判断するものとされています。
学ぶこと
この事例から学ぶ中心は、
薬剤や消毒薬は、見た目・置き場所・ラベル・手順で間違えにくくする。
事故後は、救命、説明、記録、院内報告、必要な外部対応を速やかに検討する。
ということです。
事故後対応が不十分だと、患者・家族の苦しみと医療不信をさらに深めます。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
厚生労働省
「死亡診断書(死体検案書)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/sibousinndannsyo.html
参照日:2026年5月9日
2000年 京都大学医学部附属病院 エタノール誤注入事故
主なテーマ
液体誤認/類似容器/人工呼吸器/保管・表示/フールプルーフ
何が起きたのか
2000年2月、京都大学医学部附属病院で、人工呼吸器の加湿器に蒸留水ではなくエタノールを誤って注入し、患者が長時間エタノールを吸入して中毒死しました。
厚生労働省の「主な医療安全関連の経緯」でも、人工呼吸器の加湿器に蒸留水とエタノールを間違えて注入し、長時間にわたるエタノール吸入により患者が中毒死した事例として整理されています。
なぜ問題になったのか
この事故は、「液体を間違えた」という単純な話ではありません。
背景には、次のような要因が考えられます。
- 容器の見た目が似ている
- ラベルが分かりにくい
- 蒸留水とエタノールの保管場所が近い
- 補充時の確認手順が弱い
- 人工呼吸器管理に関する教育・確認が不十分
人は、忙しいとき、慣れた作業のとき、似た容器を前にしたときに間違えます。
そのため、間違えやすい環境そのものを変える必要があります。
学ぶこと
この事例から学ぶ中心は、
「注意する」だけではなく、間違えにくい環境を作る。
容器、ラベル、置き場所、補充手順を設計で安全にする。
ということです。
医療安全では、フールプルーフ、フェイルセーフ、物理的分離といった考え方が重要になります。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
2000年 東海大学医学部附属病院 内服薬誤点滴事故
主なテーマ
投与経路誤り/内服薬/点滴/経口薬と注射薬の分離
何が起きたのか
2000年4月、東海大学医学部附属病院で、内服薬を誤って血管内に点滴し、患児が死亡しました。
厚生労働省の「主な医療安全関連の経緯」でも、内服薬を誤って血管内に点滴し、患児が死亡した事例として記載されています。
なぜ問題になったのか
薬剤安全では、薬の名前や量だけでなく、投与経路が非常に重要です。
内服薬は口から投与する薬であり、血管内に投与する薬ではありません。
しかし、薬剤を準備する場面、容器、シリンジ、ルート、指示の読み取り、投与直前確認が曖昧だと、経路の取り違えが起こります。
学ぶこと
この事例から学ぶ中心は、
薬剤確認は「患者・薬剤・量・時間」だけでは足りない。
投与経路を確認し、経口薬と注射薬を物理的に分ける。
ということです。
経口薬と注射薬は、保管、容器、シリンジ、ラベル、ルート接続で混ざらないようにする必要があります。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
2000年 埼玉医科大学総合医療センター 抗がん剤過量投与事故
主なテーマ
抗がん剤/投与間隔/レジメン管理/疑義照会/チームで止める力
何が起きたのか
2000年、埼玉医科大学総合医療センターで、抗がん剤の投与間隔を誤った過量投与事故が起きました。
日本産科婦人科学会誌掲載資料では、埼玉医大が2000年に「抗がん剤過量投与事故というきわめて重大な医療過誤」を起こし、その後、再発予防のために「リメンバー2000」を合言葉として医療安全対策に取り組んできたと記載されています。
なぜ問題になったのか
抗がん剤は、投与量だけでなく、投与間隔、休薬期間、レジメン全体の理解が必要な薬剤です。
この種の事故では、次のような防壁が重要になります。
- レジメンの標準化
- 投与間隔の確認
- 薬剤師による処方監査
- 看護師の投与前確認
- 疑義照会を止めない文化
- 電子カルテやオーダリング上のアラート
学ぶこと
この事例から学ぶ中心は、
抗がん剤は「薬剤単体」ではなく「レジメン」として管理する。
投与量だけでなく、投与間隔・休薬期間・投与条件をチームで確認する。
ということです。
医師、薬剤師、看護師の誰かが疑問を持ったとき、その疑問を流さず、確認できる仕組みが患者を守ります。
参考元
日本産科婦人科学会誌
「医療事故などに対する初期対応」
https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63%2F59%2F9%2FKJ00004974376.pdf
参照日:2026年5月9日
2001年 患者安全推進年・医療安全推進室の設置
主なテーマ
制度化/患者安全/ヒヤリ・ハット/報告文化
何が起きたのか
2001年、厚生労働省は「患者安全推進年」とし、「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動」を推進しました。
同年には、医療安全推進室の設置、医療安全対策検討会議の発足、ヒューマンエラー部会・医薬品医療用具等対策部会の設置、医療安全対策ネットワーク整備事業の開始などが進みました。
なぜ重要なのか
この時期から、医療安全は「事故が起きた病院だけの問題」ではなく、国全体で取り組む政策課題として扱われるようになりました。
事故を責めるだけではなく、ヒヤリ・ハットを集め、分析し、再発防止に活かす流れが作られていきます。
学ぶこと
この出来事から学ぶ中心は、
医療安全は、個人の努力ではなく、報告・分析・改善の仕組みとして整える。
ということです。
ヒヤリ・ハットは、失敗の記録ではありません。
事故を防ぐための貴重な学習資源です。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
2001年 東京女子医科大学病院 人工心肺事故
主なテーマ
人工心肺/体外循環/高リスク機器/チーム医療/臨床工学
何が起きたのか
2001年3月、東京女子医科大学で、陰圧吸引補助脱血法を用いた体外循環に関わる事故が発生しました。
関連学会等による「人工心肺装置の標準的接続方法およびそれに応じた安全教育等に関するガイドライン」では、2001年3月に東京女子医科大学で発生した体外循環に関わる事故を契機として、開心術における体外循環の安全性確立が大きな社会的要請となったとされています。
なぜ問題になったのか
人工心肺など生命維持に関わる医療機器は、扱い方を誤ると短時間で重大な結果につながります。
この種の事故では、次のような点が重要になります。
- 機器の構造と限界を理解しているか
- 回路の接続方法が標準化されているか
- 圧、流量、空気混入などを監視しているか
- 操作者の資格・教育・経験が明確か
- 異常時の中止・応援要請手順があるか
- 医師、看護師、臨床工学技士の役割が明確か
学ぶこと
この事例から学ぶ中心は、
高リスク機器は、個人の経験や慣れだけで扱わない。
標準化、教育、監視装置、役割分担、緊急時対応で守る。
ということです。
医療機器の安全は、機器そのものだけでなく、それを扱うチームと仕組みによって成り立ちます。
参考元
関連学会等/厚生労働省掲載資料
「人工心肺装置の標準的接続方法およびそれに応じた安全教育等に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/topics/2007/04/dl/tp0425-1a.pdf
参照日:2026年5月9日
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
2002年 医療安全推進総合対策
主なテーマ
制度/医療安全管理体制/標準化/再発防止
何が起きたのか
2002年4月、医療安全対策検討会議により「医療安全推進総合対策」が策定されました。
厚生労働省の経緯では、2002年4月に「医療安全推進総合対策」が策定されたこと、同年10月に病院および有床診療所における安全管理体制の確保が行われたことが示されています。
なぜ重要なのか
1999年以降の重大事故を受けて、医療安全は各医療者の努力だけでなく、医療機関の管理体制として整備される方向に進みました。
安全管理体制、報告、委員会、指針、職員研修などが重要な要素になっていきます。
学ぶこと
この出来事から学ぶ中心は、
医療安全は、現場任せにせず、病院の管理体制として作る。
ということです。
事故を防ぐには、方針、手順、教育、報告、分析、改善を継続的に回す必要があります。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
2002年発生・2003年刑事事件化 東京慈恵会医科大学附属青戸病院 腹腔鏡手術事故
主なテーマ
新規技術/腹腔鏡手術/術者経験/監督体制/インフォームド・コンセント
何が起きたのか
2002年、東京慈恵会医科大学附属青戸病院で、腹腔鏡下前立腺手術に関連して患者が死亡しました。
厚生労働省の「主な医療安全関連の経緯」では、2003年9月の項目として、東京慈恵医大附属青戸病院事件を「泌尿器科手術により患者が死亡」と記載し、その後、医師3名が業務上過失致死容疑で逮捕・起訴されたと整理しています。
なぜ問題になったのか
この事故では、新しい術式や高度な手技をどのように導入するかが問われました。
重要なのは、次の点です。
- 術者が十分な経験を持っていたか
- 指導医・監督者が適切に関与していたか
- 開腹移行などの中止・変更基準があったか
- 患者への説明が十分だったか
- 手術チームとしてリスクを共有していたか
- 病院として新規技術を管理する仕組みがあったか
学ぶこと
この事例から学ぶ中心は、
新しい技術を始めるときは、技量・適応・監督・説明・中止基準をセットで管理する。
ということです。
「できるかもしれない」ではなく、「安全に実施できる体制が整っているか」を組織として確認する必要があります。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会
「慈恵大学附属青戸病院の医療事故の判決と再発防止について」
https://www.jsee.jp/news/2006/news300/
参照日:2026年5月9日
2004年 都立広尾病院事件に関する最高裁判決
主なテーマ
事故後対応/異状死届出/医師法21条/司法との関係
何が起きたのか
2004年、都立広尾病院事件に関する最高裁判決が出されました。
厚生労働省の「主な医療安全関連の経緯」では、この判決について、自己の診療していた患者であっても、異状死であれば医師法21条の届出義務を負うこと、またその届出義務は憲法38条1項に違反しないことが示されたと整理されています。
なぜ問題になったのか
この判決は、事故そのものだけでなく、事故後に医療機関が何をすべきかを考えるうえで重要です。
事故後には、次の対応が必要になります。
- 救命・被害拡大防止
- 患者・家族への説明
- 記録の保全
- 院内報告
- 異状を認める場合の外部届出
- 原因分析
- 再発防止策の実装
学ぶこと
この出来事から学ぶ中心は、
事故後対応も医療安全の一部である。
ということです。
事故が起きたときに慌てて判断するのではなく、平時から事故発生時のフローを整えておく必要があります。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
厚生労働省
「死亡診断書(死体検案書)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/sibousinndannsyo.html
参照日:2026年5月9日
2004年 日本医学会加盟19学会の共同声明
主なテーマ
診療関連死/中立的専門機関/事故調査/再発防止
何が起きたのか
2004年9月、日本医学会加盟の基本領域19学会が共同声明を出しました。
厚生労働省の経緯では、この共同声明について、「診療行為に関連して患者死亡が発生したすべての場合について、中立的専門機関に届出を行う制度を可及的速やかに確立すべき」とする内容が示されています。
なぜ重要なのか
重大事故や診療関連死が起きたとき、病院内部だけで調査することには限界があります。
一方で、すべてを刑事事件として扱うだけでは、現場が萎縮し、再発防止につながりにくくなる可能性があります。
そのため、中立的な専門機関による原因究明と再発防止の仕組みが求められるようになりました。
学ぶこと
この出来事から学ぶ中心は、
診療関連死を、個人処罰だけでなく、原因究明と再発防止につなげる仕組みが必要。
ということです。
この流れは、後の医療事故調査制度の議論につながっていきます。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
厚生労働省
「医療事故の原因究明及び再発防止を図る仕組みについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000utuj-att/2r9852000000uvkc.pdf
参照日:2026年5月9日
2004年発生・2006年逮捕・2008年無罪確定 福島県立大野病院事件
主なテーマ
産科/大量出血/診療関連死/刑事介入/医療事故調査
何が起きたのか
2004年12月、福島県立大野病院で、帝王切開中の出血により妊婦が死亡しました。
この事例では、2006年に産科医が業務上過失致死・医師法21条違反容疑で逮捕され、その後起訴されました。
厚生労働省の経緯では、2008年9月に無罪の地裁判決が確定したと整理されています。
なぜ問題になったのか
この事例は、単に一つの産科事例としてだけでなく、医療事故と刑事介入、異状死届出、診療関連死の原因究明制度を考える大きな契機になりました。
重要なのは、結果を知った後に「防げたはず」と単純化しないことです。
- 当時どの情報が得られていたのか
- 予見可能性はあったのか
- 回避可能性はあったのか
- 人員体制や地域医療体制はどうだったのか
- 原因究明と再発防止の仕組みはあったのか
こうした点を分けて考える必要があります。
学ぶこと
この事例から学ぶ中心は、
悪い結果が起きたことと、過失があることは同じではない。
診療関連死は、中立的に調査し、原因究明と再発防止につなげる仕組みが必要。
ということです。
この事例は第2期の終盤に発生しますが、社会的な影響は第3期以降、医療事故調査制度をめぐる議論に大きくつながっていきます。
参考元
厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日
厚生労働省
「医療事故の原因究明及び再発防止を図る仕組みについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000utuj-att/2r9852000000uvkc.pdf
参照日:2026年5月9日
第2期のまとめ
第2期は、日本の医療安全が大きく制度化されていく時代です。
この時期から見える医療安全のテーマは、次の5つです。
1. 患者同定
横浜市立大学附属病院の患者取り違え手術は、患者確認が医療安全の基本であることを示しました。
2. 薬剤・投与経路の確認
都立広尾病院、東海大学医学部附属病院、埼玉医科大学総合医療センターの事故から、薬剤名、投与経路、投与間隔、保管、ラベル、疑義照会の重要性が見えます。
3. 機器・環境の設計
京都大学病院のエタノール誤注入、東京女子医科大学病院の人工心肺事故から、医療機器や環境は「人が間違える前提」で設計する必要があることが分かります。
4. 新規技術・高リスク医療の管理
慈恵医大青戸病院事件から、新しい技術を導入するときは、術者経験、指導体制、適応、説明、中止基準を整える必要があることが分かります。
5. 事故後対応と制度化
都立広尾病院事件の最高裁判決、日本医学会19学会の共同声明、福島県立大野病院事件は、事故後対応、届出、診療関連死の調査、再発防止制度の必要性につながっていきます。
この第2期で伝えたいこと
第2期で一番大切なのは、次のことです。
医療安全は、個人の注意だけでは守れない。
患者確認、薬剤確認、機器管理、チーム連携、事故後対応を、病院全体の仕組みとして整える必要がある。
1999年以降、日本の医療安全は、個人の反省から、組織の仕組みへと大きく動き始めました。
第2期の参考資料一覧
- 厚生労働省
「主な医療安全関連の経緯」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/i-anzen/keii/index.html
参照日:2026年5月9日 - 横浜市立大学
「横浜市立大学医学部附属病院の医療事故に関する事故調査委員会報告書」関連ページ
https://www.yokohama-cu.ac.jp/kaikaku/bk2/bk21.html
参照日:2026年5月9日 - 厚生労働省
「死亡診断書(死体検案書)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/sibousinndannsyo.html
参照日:2026年5月9日 - 日本産科婦人科学会誌
「医療事故などに対する初期対応」
https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=to63%2F59%2F9%2FKJ00004974376.pdf
参照日:2026年5月9日 - 関連学会等/厚生労働省掲載資料
「人工心肺装置の標準的接続方法およびそれに応じた安全教育等に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/topics/2007/04/dl/tp0425-1a.pdf
参照日:2026年5月9日 - 厚生労働省
「医療事故の原因究明及び再発防止を図る仕組みについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000utuj-att/2r9852000000uvkc.pdf
参照日:2026年5月9日 - 日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会
「慈恵大学附属青戸病院の医療事故の判決と再発防止について」
https://www.jsee.jp/news/2006/news300/
参照日:2026年5月9日